東京高等裁判所 平成元年(行ケ)83号 判決 1990年4月17日
新潟県南蒲原郡栄町大字猪子場新田一三〇〇番地
原告
株式会社三條機械製作所
右代表者代表取締役
建石昌男
右訴訟代理人弁理士
瀧野秀雄
同
有坂悍
ドイツ連邦共和国 ハンブルグ八〇 カンプショセー八-三二
被告
ケルベル アクチエンゲゼル シヤフト
(旧商号 ハウニ ウエルケ ケールバー
ウントコンパニー コンマンデイツトゲゼル シヤフト)
右代表者
ヘルムート ベツカー フロリス
同
ルードウイヒ アドルフ ヒス
右訴訟代理人弁理士
江崎光史
同
三原恒男
同
藤田アキラ
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「特許庁が昭和五九年審判第一六六七二号事件にいて昭和六四年一月六日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文第一、二項同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
ハウニ ウエルケ ケールバー ウント コンパーコンマンデイツトゲゼルシヤフトは、名称を「タバコ加工業において使用される材料、殊にフイルタ材料を被覆テープにて連続被覆する装置」とする特許第一一二三七八六号発明(一九七〇年一二月三〇日のドイツ連邦共和国への特許出願に基づく優先権を主張して昭和四六年一二月三〇日特許出願、昭和五五年一月一七日出願公告、昭和五七年一一月三〇日設定登録、以下「本件発明」という。)についての特許権者であるが、原告は、昭和五九年八月二九日、ハウニ ウエルケ ケールバー ウント コンバニー コンマンデイツトゲゼルシヤフトを被請求人として本件発明についての特許の無効審判を請求し、昭和五九年審判第一六六七二号事件として審理された結果、昭和六二年五月一四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)があり、原告は、これに対し、東京高等裁判所に前審決の取消しを求める訴え(昭和六二年(行ケ)第一三二号)を提起したところ、昭和六三年二月二五日、「特許庁が昭和五九年審判第一六六七二号事件について、昭和六二年五月一四日にした審決を取り消す。」との判決が言い渡され、同判決は確定した。そのため、前記昭和五九年審判第一六六七二号事件は特許庁において再度審理された結果、昭和六四年一月六日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成元年三月二七日原告に送達された。
なお、被告は、昭和六二年七月八日、ハウニ ウルケケールバー ウント コンバニー コンマンデイツトゲゼルシヤフトの法人格を法律上承継し、昭和六三年二月九日、特許庁長官にその旨届出た。
二 本発明の要旨
材料を長さ方向に送るための送り装置、被覆テープを連続体の上に被覆する連続体形成手段、加熱した熱溶融接着剤を被覆テープの縁に塗布する塗布装置、連続体形成手段の後に続く被覆済み連続体の接着縫合部の強制冷却をする冷却装置を有するタバコ加工業で使用される材料、特にフイルタ連続体材斜を被覆テープで連続被覆する装置において、加熱した熱溶融接着剤を連続体に被覆する前に被覆テープ314の上に塗布するよう塗布装置351をボビン16から成る供給部と連続体形成手段302の間に設け、連続体形成手段302に熱溶融接着剤を被覆テープの縁を重ね合わせた後活性化する熱源303Aを附属させることを特徴とする連続被覆する装置(別紙図面参照)。
三 審決の理由の要点
1 本件発明の要旨は前項記載のとおりと認める。
2 これに対し、請求人(原告)は、甲第一号証ないし甲第八号証の二を提出し、次のとおり主張している。
本件発明の構成のうち「材料を長さ方向に送るための装置、被覆テープを連続体の上に被覆する連続体形成手段液状接着剤を被覆テープの縁に塗布する塗布装置、、連続体形成手段の後に続く被覆済み連続体の接着縫合部の強制冷却をする冷却装置を有するタバコ加工業で使用される材料、特にフイルタ連続体材料を被覆テープで連続被覆する装置において、連続体形成手段に液状接着剤を被覆テープの縁に重ね合わせた後加熱する熱源を附属させる構成」は、甲第五号証の米国特許第三〇六〇八一四号明細書(以下「第一引用例」という。)より公知である。
また、本件発明の構成中、「液状接着剤を連続体に被覆する前に被覆テープの上に塗布するよう塗布装置をボビンから成る供給部と連続体形成手段の間に設ける構成」は、甲第二号証のフランス特許公報第一五八一〇八三号(以下「第二引用例」という。)より公知である。
よつて、第一引用例と第二引用例に示される各公知技術を組み合せて本件発明の構造とすることは容易であり、この際において液状接着剤に代えて熱溶融接着剤を用いることも当業者が必要に応じて容易になしえるところである。
3 そこで検討するに、第一引用例には、材料を長さ方向に送るための装置、被覆テープを連続体の上に被覆する連続体形成手段、液状接着剤を被覆テープの縁に塗布する塗布装置、連続体形成手段の後に続く被覆済み連続体の接着縫合部の強制冷却をする冷却装置を有するタバコ加工業で使用される材料、特にフイルタ連続体材料を被覆テープで連続被覆する装置において、連続体形成手段に液状接着剤を被覆テープの縁に重ね合わせた後加熱する熱源を附属させる構成が記載されており、また、第二引用例には、液状接着剤を連続体に被覆する前に被覆テープの上に塗布するよう塗布装置をボビンから成る供給部と連続体形成手段の間に設ける構成が記載されている。
ところが、フイルタ材料を被覆テープにて連続被覆する装置において、接着剤を被覆テープの縁に塗布する装置、接着縫合部の強制冷却をする冷却装置及び接着剤を加熟する熱源の接着剤に対する作用は、使用する接着剤によつて異なるので、液状接着剤を使用する、フイルタ材料を被覆テープにて連続被覆する装置における前記塗布する装置、前記冷却装置及び前記熱源と、熱溶融接着剤を使用する、フイルタ材料を被覆テープにて連続被覆する装置におけるそれらとが、たとえその名称が同じであるとしても、その各装置の構成は相違するものである。
してみると、フイルタ連続体材料を被覆テープで連続被覆する装置において、使用する接着剤を、液状接着剤から熱溶融接着剤にかえることは当業者が適宜できることとは認められないので、第一引用例又は第二引用例には、『熱溶融接着剤を使用する、フイルタ連続体材料を被覆テープで連続被覆する装置において、加熱した熱溶融接着剤を連続体に被覆する前に被覆テープの上に塗布するような塗布装置をボビンから成る供給部と連続体形成手段の間に設ける』構成が記載されておらず、また前記『』構成を示唆する記載も認められない。
しかも、甲第三号証の一(「接着」Vol.一二 第一九頁ないし第二五頁)と甲第四号証の一(「接着便覧」一九六九年版 第七〇頁、第七一頁)のそれぞれには、ポリ酢酸ビニルをベースとする熱溶融接着剤が、甲第六号証(昭和四三年特許出願公告第二三九八四号公報)と、甲第七号証(昭和四五年特許出願公告第五四四〇号公報)のそれぞれには、接着剤を熱処理するための熱源としての封緘ユニツトが、甲第八号証の一(「接着」Vol.一三 第五四頁)には、ホツトメルト接着剤は熱可塑性であるから、あらかじめホツトメルト接着剤を塗布しておいたものをヒートシール等の方法によつて接着できることが、記載されているが、前記各号証には、前記『』構成が記載されておらず、また前記『』構成を示唆する記載も認められない。
そして、本件発明は、必須の構成要件である前記『』構成により、熱溶融接着剤塗布の際接着剤が被覆テープの縁からはみ出すこと等によつて連続体形成手段が汚染されるのを防止できるという明細書記載の効果を奏するものである。
したがつて、本件発明は、第一引用例及び第二引用例に記載されたものから当業者が容易にできたものと認めることができないし、また、他の甲号証に記載されたものから当業者が容易にできたものとも認めることができない。
5 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によつては、本件特許を無効にすることはできない。
四 審決の取消事由
第一引用例及び第二引用例には審決認定の技術的事項が記載されていることは認める。
しかしながら、審決は、第一引用例記載のものの技術内容を誤認した結果、第一引用例又は第二引用例には本件発明の構成は記載されておらず、本件発明は第一引用例及び第二引用例記載のものから当業者が容易に発明できたものとはいえないと誤つて認定、判断したものであるから、違法であつて、取消しを免れない。
すなわち、審決は、第一引用例又は第二引用例には、本件発明における「熱溶融接着剤を使用する、フイルタ連続体材料を被覆テープで連続被覆する装置において、加熱した熱溶融接着剤を連続体に被覆する前に被覆テープの上に塗布するような塗布装置をボビンから成る供給部と連続体形成手段の間に設ける」構成は記載されておらず、また右構成を示唆する記載も認められない、と認定、判断している。
しかしながら、第一引用例には、連続体形成手段の後段に加熱装置を設けて、被覆テープの縁に塗布された液状接着剤を固化させるために被覆済み連続体を加熱し、更にこの加熱装置の後段に冷却装置を設けて、品質保持等のために加熱された連続体を強制冷却する構成が開示されている。
他方、本件発明は、被覆テープの縁に塗布された熱溶融接着剤を溶融して活性化させるために被覆済み連続体を加熱し、この加熱装置の後段に設けられた冷却装置において、加熱されて活性化された熱溶融接着剤を固化するものである。
してみると、両者は、ともに被加工材料であるフイルタ連続体材料を終局的に接着するという作業を行なうための装置であることに変わりはなく、その加熱装置及び冷却装置は、ともに接着するために必要な加熱をする装置と、フイルタ連続体を冷却する装置であつて、その構成及び機能において共通するものである。
そして、接着剤の一種として熱溶融接着剤があり、これは加熱することにより溶融し、活性化されて接着性を生じ、温度を低下させることにより直ちに固化して接着状態を保持する性質のものであることは本件出願の優先権主張日前周知のことである。
したがつて、フイルタ連続体材料を被覆テープで連続被覆する装置において、使用する接着剤を、液状接着剤から熱溶融接着剤に変えることは当業者が適宜できることであつて、第一引用例には、本件発明の構成が開示され、あるいは示唆されているものといわさるを得ず、前記審決の認定、判断は誤りである。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
熱溶融接着剤が、加熱することによつて溶融し、これにより活性化されて接着性を生じ、温度を低下させることにより直ちに固化して接着状態を保持する性質を有することが本件出願前の優先権主張日前周知の事項であることは認める。
しかしながら、そもそも、第一引用例記載のものにおける加熱装置は塗布された液状接着剤を固化させるためのもの、すなわち、接着剤を不活性化させる役割を有するものである。一方、本件発明の加熱装置は、塗布された熱溶融接着剤を軟化、換言すれば、接着剤を溶融させ活性化させる役割を有するものである。したがつて、両者の加熱装置は全く正反対の役割を果たすものである。また、第一引用例記載のものにおける冷却装置は、加熱され不活性となつた接着剤による長手方向のシームの破裂を回避する役割を有するものであるのに対し、本件発明の冷却装置は、加熱され活性化した接着剤を不活性化させる役割を有するものであり、不活性化という点ではいわば第一引用例記載のものにおける加熱装置と同じ作用を接着剤に施すものである。したがつて、第一引用例記載のものにおける冷却装置と本件発明における冷却装置とは、長手方向のシームの破裂を回避する役割と接着剤を不活性化させる役割といつた異なつた役割を有するものである。
このように、第一引用例記載のものと本件発明の加熱装置及び冷却装置はその機能を異にするものであつて、第一引用例記載のものにおいて、使用する接着剤を、液状接着剤から前記周知の熱溶融接着剤に変えることは当業者が適宜できることとはいえないから、第一引用例には、本件発明の構成が記載されておらず、これを示唆する記載もないとした前記審決の認定、判断に誤りはない。
第四 証拠関係
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1(一) 成立に争いのない甲第二号証の一(昭和五五年特許出願公告第一七八九号公報、以下「本件公報」という。)、甲第二号証の二(本件公報の補正公報)によれば、本件発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。
本件発明は、タバコ加工業において使用される材料、殊にフイルタ材料を被覆テープにて連続被覆する装置で、該材料を縦方向に送る装置と、熱溶融接着剤を塗布した被覆テープの縁を連続的に折り込むフイルタ連続体形成手段とを備えた装置に関するものである(本件公報第二欄第八行ないし第一三行)。
タバコ製品のフイルタ棒は、主として連続押出法で製造され、予処理されたフイルタ材料の流れを、縁に糊付けした被覆テープで巻き、重なり部分を接着するというのが一般的である。しかし、現在では押出速度がきわめて高速になつているので、糊はわずかの時間で接着機能を果たし、しかも接着したばかりの継目に十分な強度を与えなければならず、従来高速フイルタ製造機において四〇〇m/分の連続体製造速度によるきわめて短時間の接着剤の固化と熱接着剤塗布の際接着剤が縁からはみ出すことの防止が問題であつた(同第二欄第一四行ないし第三二行)。本件発明は、右問題点を解決し、しかもあらゆる製造条件に影響を受けない接着縫合を閉じるフイルタの連続的経済的製造方法であつて、熱溶融接着剤を塗布した接着継目の乾燥時間もしくは乾燥区間を減少させることを目的とし(同第二欄第三二行ないし第三七行)、本件発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである(補正公報本文第一行ないし第七行)。
本件発明は、前記構成を採用したことにより、高速機械の場合にも、従来の液状糊の使用時に必要であるような長い加熱区間を必要とせずに、接着継目を十分に強化させることができ、また、冷却装置においては冷却出力を比較的小さくすることができ(本件公報第六欄第一八行ないし第二三行)、また、熱溶融接着剤の際接着剤が被覆テープの縁からはみ出すこと等によつて連続体形成手段が汚染されることを防止する(第三欄第一四行ないし第三一行)という作用効果を奏するものである。
(二) 他方、第一引用例及び第二引用例には審決認定の技術的事項が記載されていることは原告の自認するところである。
2 原告は、第一引用例記載のものにおける加熱装置及び冷却装置は、本件発明の加熱装置及び冷却装置と、それぞれの構成、機能において共通するものであり、そして、接着剤として熱溶融接着剤があり、これは加熱されることにより溶融し、活性化されて接着性を生じ、温度を低下させることにより直ちに固化して接着状態を保持するものであることは本件出願の優先権主張日前周知の事項であることからして、フイルタ連続体材料を被覆テープで連続被覆する装置において、接着剤を液状接着剤から熱溶融接着剤に変えることは当業者が適宜できることであるから、第一引用例には本件発明の構成が開示ないし示唆されている、と主張している。
第一引用例には、材料を長さ方向に送るための装置、被覆テープを連続体の上に被覆する連続体形成手段、液状接着剤を被覆テープの縁に塗布する塗布装置、連続体形成手段の後に続く被覆済み連続体の接着縫合部の強制冷却をする冷却装置を有するタバコ加工業で使用される材料、特にフイルタ連続体材料を被覆テープで連続被覆する装置において、連続体形成手段に液状接着剤を被覆テープの縁に重ね合わせた後加熱する熱源を附属させる構成が記載されていることは前記/(二)で認定したとおりである。さらに、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例には、「本発明の原理により、チユーブ用の紙には乾燥した熱硬化性接着剤があらかじめ塗布され、長手方向のシームに湿性接着剤が塗布されて、次いで折り曲げられ、その後チユーブが、細長いヒータと、シームを包囲してシームの両側の相当の角度チユーブ周囲に伸びている飾り部との組み合わせを含んでいる、チユーブ密封および成形手段内に送り込まれる。ヒータの円弧が大きいので、相当の領域にわたつて比較的大きな圧力が加えられ、この領域で、比較的重い紙を通つて熱が伝えられ、チユーブが形成され、対応する領域で熱硬化性接着剤が包囲されたフイルタスタツブに対して軟化、硬化されて、長手方向のシームが密封される(第一欄第四六行ないし第六〇行)。」「本発明の装置は、ヒータユニツトを通つた後にチユーブが通るクーラユニツトを有していて、このクーラユニツトによつてチユーブの所望の形状が形成され、チユーブが制限保持されている間に接着剤の硬化が行なわれる(第一欄第六六行ないし第六九行)。」「接着剤は、熱硬化性であることが好ましい(第四欄第五六行、第五七行)。」「かくて、チユーブの大きな領域に加圧下で熱が加えられ、比較的厚い紙を通して熱が加えられて、熱硬化性接着剤に加熱され、チユーブ紙がスタツブに接合され、同時にシーム密封が行なわれて、チユーブが形成される(第六欄第七行ないし第一二行)。」「ヒータから出たチユーブTは、接着剤を硬化させるクーラユニット17を通つて進む。シート材料が本作業で必要とされている特徴を有しており、接着剤が所望の特徴を備えている場合に、加熱されたチユーブが上記のように処理されなければ、長手方向のシームが破裂してしまいがちであることが知られている(第六欄第五六行ないし第六二行)。」と記載されていることが認められる。
右記載からすると、第一引用例記載のものにおける加熱装置は、被覆テープの縁に塗布された熱硬化性である液状接着剤を加熱することによつて不活性化し、被覆テープの接合部を接着固化させるものであり、冷却装置は、加熱され不活性となつた接着剤による長手方向のシームの破裂を回避するという機能を営むものであると認められる。
他方、本件発明は、本件発明の要旨記載の構成を採用したものであることは前記1(一)で認定したとおりであり、さらに、前掲甲第二号証の一によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、「テープはボビン16から繰出され、熱により活性化される接着剤(以下、簡単に熱接着剤と呼ぶ)を塗布される(本件公報第四欄第一二行ないし第一四行)。」「駆動されたフオーマツトベルト7がボビン16から被覆テープ14を引出し、フイルタ連続体形成手段1の中を貫通させる。赤外線照射器23は熱接着剤塗布筋17、18、19を加熱して、活性化する。すなわち接着能力を発揮させる(同第四欄第三九行ないし第四三行)。」「型部分2の中でフイルタ材料6が被覆テープ14で巻かれた後、完成フィルタ連続体28は案内部分3内を案内され、その間に、熱接着剤が冷却される。これで、継目は開くことができなくなる(同第五欄第二行ないし第五行)。」と認載されていることが認められる。
右事実によれば、本件発明における加熱装置は、被覆テープの縁に塗布された熱溶融接着剤を溶融して活性化させるものであり、冷却装置は、加熱して活性化された熱溶融接着剤を不活性化して固化させるという機能を営むものであると認められる。
してみると、第一引用例記載のものにおける加熱装置は、接着剤を不活性化させるものであるのに対し、本件発明の加熱装置は、接着剤を活性化させるものであり、また、第一引用例記載のものにおける冷却装置は、加熱され不活性となつた接着剤による長手方向のシームの破裂を回避するものであるのに対し、本件発明の冷却装置は、加熱され活性化した接着剤を不活性化させるものであつて、両者の加熱装置及び冷却装置の機能はおよそ異なるものである。
したがつて、接着剤の一種として熱溶融接着剤があり、これは加熱することにより溶融し、活性化されて接着性を生じ、温度を低下させることにより直ちに固化して接着状態を保持する性質のものであることは本件出願の優先権主張日前周知の事項であり、また、第二引用例には、液状接着剤を連続体に被覆する前に被覆テープの上に塗布するように塗布装置をボビンから成る供給部と連続体形成手段の間に設ける構成が記載されているからといつて、第一引用例には本件発明の加熱装置及び冷却装置についての構成は開示されておらず、その示唆する記載も認められないから、第一引用例及び第二引用例記載のものを組み合わせて本件発明の構成を得ることは当業者が容易になし得るものとはいえない。
3 以上のとおりであるから、第一引用例又は第二引用例には、本件発明の構成を開示ないし示唆する記載はないとして、本件発明の進歩性を肯定した審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 竹田稔 裁判官 岩田嘉彦)
別紙図面
<省略>